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浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)364号 判決 1985年7月29日

原告

村上和子

被告

星山良一

主文

一  被告は、原告にントの過失対し金三九二万一八六〇円及び内金三五七万一八六〇円に対する昭和五六年三月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金四五六万八七三四円及び内金四一一万八七三四円に対する昭和五六年三月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 事故

昭和五六年三月五日午前一一時五分ごろ、東京都小平市学園西町三丁目三〇番地先交差点において、被告の従業員である訴外郷隆博は、被告所有の大型貨物自動車(大宮一一や四八四七、以下本件自動車という。)を運転して小平市役所方面から鷹の台方面へ向け進行し、本件交差点を左折しようとした際、鷹の台方面へ向けて足踏自転車に乗つて本件交差点の横断歩道上を進行していた原告に衝突した。

(二) 受傷

原告は、右事故により、右大腿骨骨折、同挫傷、左大腿下腿折撲挫傷、全身打撲傷、右鼠蹊部会陰部皮下血腫の傷害を受け、昭和五六年三月五日から同年七月一一日まで一二九日間及び昭和五七年一月二八日から同月二七日まで一〇日間、合計一三九日間、東京都小平市学園西町一丁目二番二五号所在の医療法人社団青葉会一橋病院に入院し、さらに、昭和五六年七月一二日から昭和五七年一月一七日まで及び同年一月二八日から同年三月三一日まで、実日数合計五七日間同病院に通院して治療を受けた。

2  被告の責任

被告は、本件自動車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づく責任がある。

3  損害

原告は、右事故により次のとおりの損害を被つた。

(一) 治療費 金四四万四九五四円

(二) 付添料 金八五万九二〇〇円

(昭和五六年三月五日から同年六月一七日まで、及び昭和五七年一月一九日、二〇日)

(三) 入院雑費 金一三万九〇〇〇円

(一日一〇〇〇円で一三九日間)

(四) 休業損害 金二三二万五五八〇円

原告は、本件事故当時三〇歳の主婦であつて、家事労働に専念するものであるが、本件事故による入退院により昭和五六年三月五日から昭和五七年三月三一日まで三九二日間稼働できなかつた。昭和五六年賃金センサス女子労働者学歴計三〇歳の平均賃金年額は金二三二万五五八〇円であるから、少なくとも右同額の休業損害を被つた。

(五) 慰謝料 金一七〇万円

(六) 弁護士費用 金四五万円

4  損害の填補

原告は、自賠責保険から金一二〇万円を、被告らから見舞金として金一五万円合計金一三五万円の支払を受けた。

5  よつて原告は被告に対し、自賠法三条に基づく損害賠償金四五六万八七三四円及び右金員から弁護士費用を控除した内金四一一万八七三四円に対する本件事故の日である昭和五六年三月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実は認めるが、同(二)の事実は知らない。

2  同2の事実は認める。

3  同3の各事実は知らない。

4  同4の事実は認める。

5  同5は争う。

三  抗弁

原告は、訴外郷隆博運転の本件自動車が本件交差点手前で左折の合図を出して信号待ちをしたのち対面信号が青色に変るのを待つてすでに左折を開始していたのに全く気付かず、したがつて原告には慢然本件交差点に進入した前方及び側方不注意の過失があるので、賠償額の算定に当つては少なくとも三割程度の過失相殺をすべきである。

四  抗弁に対する認否

過失相殺の主張については否認ないし争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第一三号証、第一四ないし第一八号証の各一、二、第一九号証の一ないし三、第二〇ないし第二六号証の各一、二、第二七ないし第五五号証、第五六号証の一ないし七。

2  原告本人。

二  被告

1  分離前相被告郷隆博本人。

2  甲第二七ないし第五五号証、第五六号証の一ないし七の成立は認める。第一号証、第一二、一三号証、第二六号証の一、二の成立は知らない。その余の甲号各証について原本の存在並びに成立は知らない。

理由

一  請求原因1(一)の事実及び同2の事実については、いずれも当事者間に争いがない。

原告の受傷の事実について検討するに、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証、原告本人尋問の結果により原本の存在と成立を認め得る甲第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告主張にかかる請求原因1(二)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  次に、本件事故によつて原告が被つた損害について検討する。

1  治療費

前掲甲第一、二号証、弁論の全趣旨により原本の存在並びに成立を認めることができる甲第三ないし第一一号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一二、一三号証によれば、原告は本件事故により治療費として訴外医療法人青葉会一橋病院に金四四万四九五四円を支出し、右同額の損害を被つたことが認められる。

2  入院雑費

前記一において認定した事実並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、その主張のとおり合計一三九日間、前記一橋病院に入院した事実が認められ、弁論の全趣旨によれば一日金一〇〇〇円の割合による入院雑費を要したものと認められ、合計金一三万九〇〇〇円の損害を被つたものといえる。

3  付添費

右の如く、原告は一橋病院に合計一三九日間入院したものであるが、右入院中、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば原本の存在と成立を認め得る甲第一四ないし第一八号証の各一、二、甲第一九号証の一ないし三、第二〇ないし第二五号証の各一、二、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二六号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は家政婦の付添を必要とし、右付添費として合計金八五万九二〇〇円の損害を被つたことが認められる。

4  休業損害

前示一において認定した事実及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は昭和二五年九月一六日生まれの主婦であるところ(事故当時三〇歳)、本件事故による傷害のため、前記入院期間中は家事労働に全く従事することができず、前記通院期間中も簡単な仕事を除いては家事労働に従事することができなかつたことが認められる。これによる原告の休業損害は、原告の年間収入額を金二一六万五四〇〇円(賃金センサス昭和五六年第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計三〇~三四歳女子労働者の年間給与額)、休業期間を三九二日(入院期間一三九日と通院期間二五三日の合計)として算定すると、金二三二万五五八〇円となる。

5  慰謝料

原告は前記の受傷を受け、長期間の入通院により相当な精神的苦痛を被つたものであることは、容易にこれを推認することができる。原告の右苦痛を慰謝する金額としては、本件において金一七〇万円が相当である。

6  以上のとおりであるから、原告には合計金五四六万八七三四円の損害が生じていることが認められる。

三  そこで次に、被告が主張する過失相殺について検討する。

1  成立に争いのない甲第二七ないし第五五号証、甲第五六号証の一ないし七、分離前相被告郷隆博本人尋問の結果及び原告本人尋問の結果を総合すると、以下の事実が認めることができる。

(一)  本件事故現場は、小平市役所から鷹の台に通ずる通称鷹の街道(幅員六・六〇メートル)といわれる小平市学園西町三丁目三〇番地先の信号機の設置されている交差点であり、右道路にはセンターラインと一時停止線及び横断歩道が設けられている。また右交差点から、北方に通ずる道路は幅員三・三〇メートルで、南方に通ずる道路の幅員は五・一五メートルである。そして、本件事故当時、同交差点付近の車両及び歩行者の通行量は少なかつた。

(二)  訴外郷は、本件事故発生の日時頃、本件自動車を運転し、右道路を小平市役所方面から鷹の台方面に向つて進行し、右交差点手前で信号待ちのため停止線をオーバーして停止した後、自車左側方向指示器を点滅させて発進し、南方道路である小平第四小学校方面に向つて左折しようとした。その際、訴外郷は、左折進入して行く南方道路が比較的狭く、そこに乗用車等が止まつていると、本件自動車が入つていけないことを承知していたので、乗用車等の存在の有無を気にしていたものであり、そのため自車左前方及び左側並びに左後方等に対する注視を十分行うことなく、自車を発進させ、時速約六キロメートルの速度で進行し、本件自動車の左側の歩道を同方向に直進していた原告運転の自転車に自車左斜め前方を衝突させ、急ブレーキをかけたものの間に合わず、同自転車中央部に自車左前輪を乗り上げて停止した。

(三)  一方原告は、本件事故現場付近の歩道上(自転車通行可)を自転車に乗り、長女京子(当時三歳一〇月)を同自転車の前部に乗せ、長男雅人(当時二歳半)を背負い、本件自動車と同方向に進行し本件交差点にさしかかつたものであり、信号待ちのため一時停止した後、左右の安全を十分確認せず、横断歩道上を鷹の台方面に直進したとき、左折してきた本件自動車と衝突したものである。

2  右認定の事実によれば、本件事故現場は前記交差点の横断歩道上であり、左折しようとする車両は左前方及び左側並びに左後方等の安全を確認すべき注意義務があるのに、訴外郷は、前記のとおり、右注意義務を怠り発進し左折しようとして本件事故を発生させたものであるから、安全確認を怠つた右過失は重大といわなければならない。一方原告は、横断歩道上を横断するとはいえ、自転車を運転する者であるから、進路の安全を確認し、方向指示器を点滅させて左折しようとしていた本件自動車の動静には十分注意して進行すべきであつた。したがつて原告にも、進路の安全を確認せず、本件自動車の存在を確認しなかつた過失があるといわなければならない。

本件において、双方の過失を勘案すると、原告に生じた損害のうち被告が賠償すべき額を定めるについては、その一割を過失相殺するをもつて相当と認める。

3  そうすると、本件において、原告の前記損害額のうち九割にあたる金四九二万一八六〇円が被告に賠償を求めることができる損害となる。

四1  また請求原因4の事実については当事者間に争いがないから、右金額を控除すると、原告の残損害額は金三五七万一八六〇円となる。

2  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟追行を弁護士に委任したことが認められ、右弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係のある損害額は前記認容額の約一割にあたる金三五万円をもつて相当と認める。

五  以上のとおりであるから、本訴請求のうち、原告が被告に対し損害賠償金合計金三九二万一八六〇円及び弁護士費用を控除した内金三五七万一八六〇円に対する本件事故の日である昭和五六年三月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永田誠一)

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